EC/BtoB/SaaS事業者の売上を蝕む「見えない 20%の損失」:メール到達率とLTV最大化の戦略的インフラ診断(売上とLTVに直結させる)
- Published: 2025-11-21
- Updated: 2025-11-21
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EC/BtoB/SaaS事業者が知らない“メールが届かない”問題と到達率改善の話
デジタルを利用して事業の売上を伸ばそうとするとき、多くの事業者が最初に考えるのは「新規集客」や「広告配信の強化」かもしれません。しかし、実際の現場で伴走していると、意外なボトルネックとして浮かび上がってくるのが「そもそもメールが届いていない」という問題です。「広告効率が下がった」「リピート売上が伸びない」──その根本原因は、インフラの欠陥にあります。 メールを「単なる通知」ではなく、「LTVを担保する最重要インフラ」と位置づける表現を強化します。
メルマガの開封率が低い、クーポン施策が当たらない、ステップメールの引き上げ率が弱い──その原因の一部は「読まれていない」のではなく、「届いていない」ことにあります。本記事では、EC事業者が見落としがちなメールの到達率の話と、現実的な改善アプローチについて整理してみます。
- EC/BtoB/SaaS事業者が見落としがちな「メールが届かない」問題とは
- なぜメールは届かなくなるのか?技術的な背景
- 到達率改善のためにチェックすべきポイント
- 実務の現場で起きていることと、気づきにくい損失
- どんな規模・フェーズのECが対策すべきか
EC/BtoB/SaaS事業者が見落としがちな「メールが届かない」問題とは

メールマーケティングというと、「件名の工夫」や「クリエイティブの改善」「配信タイミングの最適化」といった話題が中心になりがちです。ところが、その一歩手前にある「配送インフラ」が不安定だと、どれだけ工夫しても成果につながりません。
到達率の問題には、次のようなパターンがあります。
- 迷惑メールフォルダに自動的に振り分けられてしまう
- 携帯キャリアメール(docomo / au / SoftBank)に届かない、あるいは大幅に遅延する
- そもそもサーバー側でブロックされ、ユーザーの受信ボックスに到達していない
- ショップ側のメール送信エラーが継続しているが、誰も気づいていない
こうした状況は、日々の運用の中では「なんとなくレスポンスが悪い」「お客様からの問い合わせが増えた」という形でしか表面化しないため、原因をメールの到達率に結びつけて考えられるケースは多くありません。その結果、広告やコンテンツ側ばかり打ち手を変え続けてしまうことになります。
なぜメールは届かなくなるのか?技術的な背景
メールが届かない理由はひとつではありませんが、多くの場合は「送信元の信頼性が不足している」「設定が不十分なまま配信している」のどちらか、あるいはその両方です。
送信ドメイン認証(SPF / DKIM / DMARC)の問題
近年のメール環境では、SPFやDKIM、DMARCといった仕組みを用いて「このメールは、本当にこのドメインから送信されているのか?」を検証するのが標準になっています。これらの設定が不十分だったり、誤った形で登録されていると、正しいメールであっても迷惑メール判定を受けやすくなります。
- SPF:どのサーバー(IPアドレス)が自社ドメインのメールを送ってよいかを定義する仕組み
- DKIM:メールの改ざんがないことを電子署名で保証する仕組み
- DMARC:SPF / DKIM の検証結果にもとづいて、受信側がどう扱うかを定義するポリシー
ECやBtoBなどのオウンドメディアの運用の現場では、カートシステム・メール配信サービス・レビュー依頼ツールなど、複数のサービスからメールが送信されていることが多く、それぞれに応じた認証設定が必要になります。ひとつでも設定が抜けていると、そのツールからのメールだけ到達率が低くなることがあります。
送信ドメインとFromアドレスの不一致
ユーザーが受け取るメールには、画面上に表示される差出人(From)があります。このFromのドメインと、実際に送信しているサーバーのドメインが一致していない場合、「なりすまし」と判定されるリスクが高まります。
例えば、実際にはメール配信サービスのドメインから送っているのに、Fromには自社ドメインを設定しているケースなどです。ツール側の推奨設定に従わず、「とりあえず送れているから」とそのまま運用していると、ある日を境に届きにくくなることがあります。
配信傾向とレピュテーションの問題
メールの世界には、表には見えない「ドメインの信用資産(レピュテーション)」というものがあります。一度落ちると回復に6ヶ月かかると言われています。同じドメインやIPから送られるメールのうち、どれくらいが迷惑メールとして扱われているか、どれくらい短時間で削除されているか、といった情報をもとに、受信側のサーバーは「この送信元はどの程度信用できるか」を判断しています。
- 一度も開封されないメールを大量に送り続けている
- 退会・配信停止の導線が分かりにくく、スパム報告されやすい
- 古いアドレスに延々と配信し続けている
こうした配信が積み重なると、目に見えないところで送信元の評価が下がり、「配信しているのに届いていない」状態を引き起こします。注文・発送通知が届かないことによる、リピート顧客の 10%程度の離脱、レビューが集まらないことによる、新規CVRの5%以上の低下など、損失が発生している可能性があります。
到達率改善のためにチェックすべきポイント
到達率の改善は、本来であれば専門的に検証すべき領域ですが、EC事業者側で最低限チェックできるポイントもあります。ここでは、現場でよく確認している項目を整理してみます。
1. 送信ドメイン認証の設定状況を確認する
まずは、自社ドメインに設定されているDNSレコードを確認し、SPF / DKIM / DMARC が適切に設定されているかをチェックします。具体的には、次のような観点です。
- SPFレコードが複数定義されていないか(1つのTXTレコードに統合されているか)
- メール配信サービスやレビュー依頼ツールなど、利用しているツールの送信サーバーがすべて含まれているか
- DKIMの公開鍵が正しく設定され、ツール側で有効になっているか
- DMARCが「監視だけ」なのか、「厳しすぎるポリシー」になっていないか
2. 利用しているツールごとの送信設定を洗い出す
Shopify、メール配信サービス、レビュー依頼ツール、問い合わせフォーム、予約システムなど、ECサイトやオウンドメディア運用には多くの「メールを送る仕組み」が存在します。まずは、どのツールから、どのアドレス名義で、どのドメインを使って送っているのかを棚卸ししてみることが重要です。
- カートシステムや利用しているシステム標準の送信ドメインをそのまま使っていないか
- テスト時に設定したままのFromアドレスを使い続けていないか
- ツール側に「送信ドメイン認証」のメニューがあるのに未設定のままになっていないか
3. 実際にどこまで届いているかテストする
設定を見直した後は、実際の受信環境でテストすることが欠かせません。特に、次のようなアドレスをテスト用に用意しておくと、現実的な到達状況が見えやすくなります。
- Gmail(フリーメール)
- 携帯キャリアメール(docomo / au / SoftBank のいずれか)
- 会社ドメインのメールアドレス
同じ内容を同時に送信し、迷惑メールフォルダに入っていないか、受信までに時間差がないかを確認します。このテストを新しい施策を始める前や、配信ツールを切り替えたタイミングなどで定期的に行っておくと安心です。
4. 配信リストの健全性を見直す
到達率は、技術設定だけでなく、配信リストの質にも大きく影響を受けます。開封されないメールを送り続けるほど、送信元の評価は下がっていきます。
- 長期間開封されていないアドレスをセグメントし、配信頻度を落とす、あるいは削除する
- 配信停止・退会の導線を分かりやすくし、スパム報告を減らす
- 購入後のメールとメルマガを同じ頻度で送りすぎないように調整する
「せっかく集めたアドレスだから」とすべてに同じように送り続けるのではなく、読者との関係性に応じて配信をコントロールすることが、結果的に到達率の維持につながります。
5. 開封率の数字を鵜呑みにしない — iOSの「Mail Privacy Protection(MPP)」問題
到達率の改善を考えるうえで近年無視できないのが、iOS15以降で導入された Mail Privacy Protection(MPP) の影響です。これは、Appleのメールアプリを利用しているユーザーのメールを、ユーザーが開封していなくてもバックグラウンドで自動的に読み込むという仕組みです。日本のiPhoneの利用率の高さは目を見張るものがあり、提供しているサービスやブランドなどによっては70%を超えていることもあります。

このiOSの新しい機能であるMPPの結果:
- 開封率が実際より高く見える
- 「届いた / 届いていない」の判断に開封率が使えなくなった
- クリック率(CTR)やエラー率のほうが信頼できる指標になった
Shopifyなどでも連携されている、Mailchimp や Klaviyo では、MPPの影響を避けるために、指標の数値が提供されています。
- 「推定開封率(Estimated Opens)」
- 「Apple MPPによる開封」
開封率が高く見えていても、それが「ユーザーが読んだ」ことを意味しないため、次のような判断は危険です。
- 「開封率が高いから届いているはず」 → 実際は届いていない
- 「開封率が悪化していないから問題なし」 → MPPで数字が歪んでいる
- 「ステップメールが機能している」 → 実際は読まれていない
特にEC事業でのメール配信運用では、改善判断をするときにCTR(リンクのクリック率)や、実際の 購入・レビュー・問い合わせ といった“行動ベース”の指標を見ることが重要です。
つまり、メールの世界では:
開封率は「到達率の代理指標」ではなくなった
というのが、2020年代の大きな変化です。
実務の現場で起きていることと、気づきにくい損失
実際にECやオウンドメディアの運用を支援していると、メールの到達率が原因と思われるトラブルは少なくありません。例えば、次のようなケースです。
- レビュー依頼メールの開封率が極端に低く、調べてみるとドメイン認証が途中までしか設定されていなかった
- カートシステムのバージョンアップ後、一部の顧客に注文確認メールが届いておらず、問い合わせで発覚した
- 配信ツールの乗り換え時にSPFレコードの統合がうまくいかず、新旧ツールの設定が衝突していた
- 問い合わせフォームのスパム対策を強くしすぎて、正規のユーザーのメールが弾かれていた
こうした問題は、目の前の売上として見えることが少なく、「なんとなく最近レスポンスが悪い」「広告効率が落ちてきた」といった形で影響が出ます。本来であれば獲得できていたリピート売上や、レビューによる信頼醸成の機会が失われていると考えると、その損失は決して小さくありません。
一方で、到達率の改善は「一度きちんと整えてしまえば、しばらくは安定して効いてくれる施策」です。広告予算を増やすよりも前に、メールがきちんと届く状態を整えることは、ECにおける“インフラ整備”に近い取り組みと言えます。
どんな規模・フェーズのEC/BtoB/SaaS事業者が対策すべきか
到達率の話をすると、「うちは配信数が少ないから」「まだメルマガに本腰を入れていないから」という理由で後回しにされることがあります。しかし、小規模〜中規模のEC/BtoB/SaaS事業者こそ、初期の段階から最低限の対策をしておく価値があります。
- 配信数が少ないショップ、サービスほど、1件あたりのスパム報告やエラーの影響が大きい
- 立ち上げフェーズで悪いレピュテーションがつくと、後から取り返すのが大変
- レビュー依頼や再入荷通知など、売上に直結する通知が届かないリスクを早めに潰しておきたい
月商の規模で言えば、数十万円〜数百万円の段階からでも、到達率の基礎を整えておくことをおすすめします。本格的に広告やCRMを回し始めるころには、「メールが届くこと」が前提条件になっているからです。
自社内にメール周りの設定やログを追える担当者がいない場合は、スポットでの診断や、顧問・並走型のサポートを外部に依頼するのもひとつの選択肢です。DNSや各サービスの設定を一度整理しておけば、その後の運用は格段に進めやすくなります。
おわりに:メールの到達率は“地味だけれど、効き続ける施策”
最近は、ユーザー自身がメールを開く頻度そのものが減り、 コミュニケーションの中心は LINE や SNS に移りつつあります。 それでも、サービス事業者とユーザーの正式な連絡手段は、 いまだに「メール」が中心であるという現実は大きく変わっていません。
注文確認、発送通知、パスワードリセット、問い合わせ対応など、 ビジネスにおける重要なやり取りの多くは今もメールを前提として進んでいます。 だからこそ、メールがきちんと届き、開封され、読まれる確率を 今あらためて見直す価値があると感じています。
メールの到達率は、派手な新施策ではありませんが、ECの売上と顧客体験を支える大切な基盤です。広告やコンテンツを工夫する前に、「そもそも届いているのか?」を一度立ち止まって確認してみるだけでも、見える景色が変わるはずです。
この記事で触れたメール到達率は、EC事業における「戦略的インフラ診断」の第一歩に過ぎません。
多くのEC事業者は、「何にいくら投資すべきか」の判断を間違えています。広告費を増やす前に、「届いていない」という構造的な損失を解決することが、最も確実な ROI(投資対効果) です。
自社でのEC、オウンドメディア運営・メール運用の経験をもとに、ドメイン設定や配信ツールの見直し、日々の運用フローの整理などをお手伝いしています。メールの到達率に不安がある、通知やステップメールが本当に届いているか確認したい、といったご相談も含めて、まずはお気軽にお問い合わせください。
- Published: 2025-11-21
- Updated: 2025-11-21
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